4.鬼門の二日目・地獄の縦走。
山の朝は早い。5時に起きて朝食を済ませ、6時には出発だ。淀川の水は見事なまでに澄んでいた。3日分の水を持参するのは重量的に苦行と判断し、2日目以降は水は現地調達することにした。湧水ポイントで給水、もしくは川の水をペットボトルに詰めて持ち歩くことになった。
高度が上がると次第に木がなくなっていく。この鬼ルートでは宮之浦岳を越える必要があるのだが、この宮之浦岳(1936m)こそ九州全土で1番標高が高い山でもあるのだ。決して楽ではない。遮蔽物なしに雨が直撃し続けるのでレインウェアを着ているとはいえ体力はみるみる奪われていく。風もあり、止まると寒く・動くと蒸し暑い。
所々で急勾配の岩場をロープで登らなければならない。ソロで来るんじゃなかったと後悔したのがこの辺りだった。周りに誰もいない。精神的にキツくなったので歌うことにした。一人カラオケだ。それでもキツかったのでポジティブな言葉を意識的に口に出した。これは登山家の故:栗城史多氏のうけうりなのだが「頑張れ!大丈夫!」と声を出すと少し楽になるから不思議なのだ。漫画「岳」の主人公:三歩の口ぐせだった「よく頑張った!」も力が湧いてくる言葉だった。雨に打たれたおっさんが1人で叫んでいるあたり、側から見ればヤバい奴でしかないだろう。
宮之浦岳頂上は雲の中。向こう側に猿の群れがいた。刺激しない距離で記念撮影。
時刻は昼を過ぎており、腹が減ったが雨宿りできる場所がない。小雨になったところで(それでも濡れながら)急いでお湯を沸かしてカップラーメンだけを食べた。教訓:もっと移動食を持っていくべきだった。飴やカロリーメイトだけではエネルギー補給が追いつかなかった。
そんな困難も楽しんでこそ!宮之浦岳から縄文杉までは基本的に下山なので気持ちはいくらか楽だ。どうやってここに辿り着いたか分からない大きな岩がそこらじゅうに転がっている。晴れていたら最高の景色だっただろうな。
おっさんの自撮りタイム。どうせ誰もいないし恥ずかしくない。
屋久島ではよく鹿に出会う。そこらじゅうに鹿のう○こが転がっていた。そういえばヒルも見かけた。ヒル撃退スプレー(もしくは食塩水を100円均一のスプレーボトルに入れて代用したもの)を足周りに振っておくと血を吸われる可能性を下げられるそうだ。
少し雲が切れるタイミングがあった。なんて荘厳なんだろう。二泊目のゴールは新高塚小屋か高塚小屋の二箇所から選べる。新高塚小屋は比較的大きめの小屋なので場所取りにも苦労しないだろうし、しかも高塚小屋に行くには最後に登り勾配が待ち構えており「もう新高塚でいいや」と心が折れそうになった。しかしここまできて縄文杉独り占め計画を断念する訳にはいかず、体に鞭打ってもうひと登り…。ついに高塚小屋にたどり着く。3階建ての小さな小屋にはすでに先客あり。1階の最後のひと区画にありつけた。
荷物を下ろして夕暮れの縄文杉へ。歩いて5分だ。この瞬間を待っていた!足の痛みなど吹き飛んだ。
この時間なので日帰りコースの観光客は下山している。よって文字通り独り占めタイムとなるのだ!雨でレンズが濡れて解像感のない写真になってしまった。小屋に戻って食事を済ませ、早々に寝ることにした。あぁ風呂に入りたい。
5.タイムアタックの三日目。
なんと3日目は晴れた。5時に起床、食事を取り、荷物をまとめて、朝の縄文杉へ。朝一番なのでやはり独り占めタイムとなる。思う存分写真を撮れるのだ。鬼コースのご褒美はプライスレスだ。小鳥たちのさえずりが響く中、朝の柔らかな光が縄文杉にふりそそいでいる。そんな景色を文字通り独り占め出来るのなんて!
さて、帰りのフェリー出港の時間に間に合わせるために弾丸下山しなければならない。目の前には信じられないほど長い下りの階段が。日帰りコースの方々はこれを登るのか?ご愁傷様である。
早朝からこのルートで下る奴など誰もおらずサクサク進むことができるのは鬼ルートの特権だろう。途中でハート型の切り株ウィルソン株も待ち時間ゼロで堪能できるのだが…お生憎おひとり様なのでありがたみは薄い。
屋久島とトイレ問題。
うきうきタイムが突如終わる。催したのだ、大きい方を、しかも3日分。しかし屋久島は世界遺産。そんじょそこらに置き土産を残す訳にはいかない。基本的には簡易トイレを持参して壁だけのトイレブースで用を足すのがルールだ。(←もちろんブツは自分で持っておりることになる。)なお、山小屋には汲み取り式トイレが併設されている場合もある。しかし今は下山ルート真っ最中。トイレブースすら見当たらなかった。我慢が決壊して恥を撒き散らす寸前で……奇跡的に汲み取り式トイレに辿り着けた!人生で1番トイレに感謝した瞬間だった。
↑九死に一生を得たトイレがこちら。地元の方がブツを担いで下ろしてくださっているそうだ。ありがたやありがたや。これから屋久島に行かれる方に心の底からお伝えしたい。万が一を考えて簡易トイレは必ず持参されたし!漏れちゃったら一生立ち直れないかもよ。
出すものを出したら湧水ポイントで水分補給。こうやって2日間は水を調達していた。びっくりするほど美味しかった。
神秘的な光に包まれたトロッコ道を下る。調子に乗って轍のない部分に足を乗せると苔で滑ってコケるのでご注意あれ。私はコケました、苔だけに。
この辺りで日帰りルートの観光客とすれ違うようになる。中には手を繋いで楽しそうに歩いているカップルもいて「果たしてこの先の階段でも笑っていられるかな?」と内心ひがんだりしたものだ。なんと器の小さい男よ。
辻の岩屋に着いた。もののけ姫でこの岩が出てくる場面がある。「お前にサンが救えるか」のシーンだ。実際にこの岩がモチーフになったのだとか。
苔むす森を抜けて下山。ゴールは近い。
AM11時頃、白谷雲水峡に到着した。怪我もなく粗相もなく下山できたことに感謝しなければ。初日の轍を踏まぬようバス停にベタ付いている私。
女子高生に囲まれる。
突如、本日2度目の地獄タイムが訪れる。フェリーに乗る前に3日ぶりの風呂に入ろうとバスで楠川温泉に向かっていたのだが、屋久島唯一の高校のバス停で女子高生たちがバスになだれ込んで来たのだ。よりによって石鹸の匂いがするJKに四方八方を囲まれたおっさん1名。なんて日だッ!こちとら雨ざらし汗ざらしで3日も風呂に入っていないのに…。静かに目をつぶり寝たふりをしてやり過ごす時間の苦しさたるや。
そんなこんなで楠川温泉に到着。(おおかたの観光客は今ごろ縄文杉あたりだろう…)温泉も独り占めであった。
宮之浦岳方向を眺めると山は雲の中だった。手を繋いでいたあのカップルは今頃どうしているだろうか。
6.屋久島縦走を終えて。
カメラ沼雑談のはずが山岳日記となってしまった。最後までお読み頂き感謝申し上げます。屋久島登山がこうして数年経っても記憶に新しい旅になったのは、人生3台目のカメラPanasonic DMC-G7を奮発して購入した恩恵だったと思う。これに加えて写真・動画編集用にDell製のWindowsPCを購入し、カメラと合わせてガジェットだけで約20万円の出費となったことは忘れよう。(※旅費は含まず)
- 登山用途ならば防塵防滴のカメラを買いましょう。
- 縄文杉独り占めコースは鬼です。
- バス停の前に立っていないとバスは止まりません。
- 簡易トイレは絶対持っていこう。
- JKの集団に囲まれたらオワコン。
こうしてMyカメラ沼散財総額は3台目で約27万円。沼の旅路はまだ始まったばかり。さて4台目はどの機種なのか?…続編へ続くッ!
では諸君、よき山岳写真ライフを!かしこ。
ブログ管理人:isofss(イソフス)