発売開始から50年が経とうとしている古い古いマニュアルレンズMicro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5を分解清掃することにしました。で、やってみたらめちゃくちゃ大変で。興味本位でバラしちゃう癖のある方が私のように朝3時まで格闘することにならないように(実話)、ここに分解清掃の全工程を記録しておきます。お役に立てば幸いです。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5外観。1973年発売開始。

おそらく写真だけでは全部をお伝えすることが難しいと思い、↓YouTubeに解説動画を上げています。ガチで分解される方は先に動画を見てから復習がてらこの記事を見返して頂くのが吉かと存じます。

1.前玉群の分解。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の前玉分解。

まずは前玉群から外します。ここは意外と簡単でゴムのレンズオープナーでグリグリするだけで前玉ユニットごとボロッと取れます。ゴムのオープナーはレンズ分解には必須かと思われます。分解沼の入口用品としておひとついかがでしょう。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5のの前玉群が取れました。さらにレンズを分離させることも可能。

こちらが前玉ユニットです。罫書き線が見える所でさらに2つにレンズが分かれます。このMicro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5は同シリーズの3代目らしく、レンズ構成は4群5枚だそうなので、2つに分かれたレンズをカニ目レンチでさらにバラすことは可能だと思われます。カニ目を挿す穴はありました。この個体は綺麗だったのでバラしませんでした。

2.後玉の分解。

続いて後玉を分解します。マウント部のネジ5本を外すと↓このようにマウントを引き抜けます。この時、絞り羽を動かすレバーの位置を確認しながら抜きましょう。組み上げる際にここにマウント側のスリットを通します。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5後玉へアクセス。まずマウント部を取ります。

マウントを外すと後玉が丸見えになります。実のところ、レンズ清掃だけでよいならカニ目レンチを使って後玉を取り外せば分解終了です。私はここから先に興味を持ってバラしてしまい元に戻せない惨劇に見舞われました。徹夜作業で組み上げのフローを発見できたのはマグレでした。ジャンクになることを覚悟してました。マジで精神的にキツかった。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の後玉はカニ目レンチで脱着可能。

外さなくてよかったストッパー。

↑赤丸の部分について。ここは分解しなくてよい部品です。役割としては、絞り環の円周上にCの形で取り付いているリングを止めるストッパーでした。こやつのおかげで絞り環が最小値と最大値で止まるようになっています。分解清掃上どこにも干渉しない部品なので放置でOK。無理に外そうとしてネジを舐めさせてしまい、さらに舐めた精密ネジはずし↓↓まで購入して抜きましたが、完全に無駄な努力でした。まぁ、ネジはずしはあって困るものではないですが(負け惜しみ)。ちなみにネジは破壊して抜くので復旧は無理DEATH。

3.禁断のヘリコイド分解。

さて心の準備は整いましたでしょうか?以下、ヘリコイド分解までの手順となります。一点補足:動画と同じ順序で書いていますが、実際は「フォーカスリング」より先に「絞り環」から外した方が安全です。組み上げの際は「絞り環」から先に取り付けた方が確実です。

フォーカスリングを外す。

では、さらにレンズ深層部までバラしたい方のために分解を続けます。まず(1)フォーカスリングのゴムを薄いマイナスドライバーをヘラにしてズラして外します。ゴムが加水分解で劣化してそうならここから先は諦めたほうがよいかも。続いて(2)金属のフォーカスリングのネジを3本を外して引き抜きます。その下にある(3)測距メモリが刻まれたアルミのリングも同じくネジ3本を外して引き抜きます。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5のフォーカスリングを外す様子。

先に「フォーカスリングより絞り環から先に外した方が良い」と書いた理由ですが、絞り環はネジ1本で止まっているため↑フォーカスリングを分解している時の圧で絞り環が無理やり外れそうになるからです(動画参照)。ネジが折れたら最悪。ご注意下さい。なお、組み上げの際は絞り環から先に取り付けることでフォーカスリングの正確な取り付け位置が分かります。

絞り環を外す。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の絞り環を外します。ネジは1本。

絞り環の側面にあるネジを1本外すと環ごと外れます。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の絞り環の内側、板バネの位置を確認。

絞り環のクリック感を出している部品がこちら。板バネと溝の位置を目視。組み上げる際は「最小絞り側」or「最大絞り側」のどちらか決めうちで位置合わせした方が確実です。

絞り機構を引き抜く。

絞り機構は前玉側のリングがストッパーになって止まっています。このリングの小さな小さなネジを抜くとリングを外せます。ネジ径1.0mmのマイナスドライバーが必要です。100均でも売っていますが、安全性を考えるとちゃんとした精密ドライバーを買っておいた方が良いと思います。私が使っているのは(↑先ほど出てきたネジはずしと同じメーカー:兼古製作所の)ANEXドライバーセットです。日本製です。Amazonで2000円しないのにとても使いやすい!おすすめです。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の絞り機構を抜くために前玉側のリングを外します。

固定用の凹凸を確認し、前玉側から絞り機構をゴソッと抜きます。この時ヘリコイド側に絞り値を連動させるスリットがあるので、組み上げる際は絞り機構側のレバーをスリットに通すようにします。動画を参照あれ。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の絞り機構を抜きました。レバー類の位置を確認。

3.ヘリコイドに到達。

先に重要なことを書きます。ヘリコイドは「外れる瞬間の位置」と同じ位置で組み直す必要があります!外れた位置が挿入位置ということ。これを怠ると元に戻せません。正確に言うと、元に戻ったように見えて鏡筒が抜け落ちるレンズが組み上がります。そうなるとまた全部バラして組み直すことになります。朝3時までかかった原因がコレでした。恐ろしや恐ろしや。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5分解の要はヘリコイドの脱着位置です。

ヘリコイドは3つあります。まず外側から抜きます。この個体は抜く位置に罫書き線が刻んでありました。無い個体の場合は刻みましょう。次に真ん中と内側を分離させます。やはりここでも抜く位置をマーキングしましょう。↓↓↓

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5の最深部のヘリコイド。位置合わせの罫書き線を確認。
重要!

全部バラしたら分解は終了です!お疲れ様でした(´∀`)。古いグリスを拭き取って、新しいグリスを注油しましょう。これはあくまで独自の見解ですが、私はバイク用のチェーンルブ(ワコーズ製)を注油しました。粘度が高いオイルなので大丈夫かと判断…今のところ不具合は起きていません。組み上げ後のフォーカスリングの操作感は抜群に良くなりました。

外側のヘリコイドに仕掛け有。

ここには2つの部品が取り付いています。↓下の写真で見えているスリット付きの板(絞り値を連動させる役割)は外さなくてもOKです。もう1つの板はこのタイミングで外します。ネジ3本です。

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5分解後、1番外のヘリコイドに仕掛けがあります。

↓この写真の方が見やすいですね。この板は3つのヘリコイドを直進させる役割があります。板が付いたままだとヘリコイド次第を組むことが物理的に出来ないので、一度外して、3つのヘリコイドを再び組み合わせた直後に取り付けます。(3つのヘリコイドを完全に締めた状態で取り付けます)

Micro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5を組み上げる時に重要な、ヘリコイドを直進させる板がコレです。

4.組み上げ。

組み上げは基本的に分解の逆工程となります。動画を見ていただいた方が理解しやすいと思いますので、ここでは重要なポイントだけまとめます。

  • ヘリコイドの位置合わせが重要。
  • 直進させる板を取り付けるタイミング。
  • 絞り環から先に取り付けること。

グリスアップをし過ぎていると組み上げ時に隙間から油が溢れてきます。くれぐれも塗り過ぎにはご注意下さい。特に絞り機構側に油が回ると羽の固着の原因にもなりかねないので。可動部以外はノンオイリー、これが吉です。

5.動作チェック、歓喜の時!

子供の頃は「家に帰るまでが遠足」なんて言われましたが、レンズ清掃は動作チェックが無事に終わるまでが戦いなのです。絞り羽動作絞り環動作フォーカス動作、そしてレンズの綺麗さチェック、この4点で合格点出せたらビール飲んでよし!

フィルムカメラNikomat EL
まだまだ現役だ!

最後までお読み頂きありがとうございます。この記事の内容がお役に立てば幸いです。一部お役に立たないかもしれない独自手法もありましたが…。最新設計の現行品レンズに比べると能力的には甚だ不足が目立つオールドレンズではありますが、自分で分解清掃すると愛着が湧いてくるから不思議です。そういえばこのMicro-NIKKOR-P.C Auto 55mm F3.5について書いた記事、なぜか当ブログで視聴数ベスト5に鎮座してます。レンズ清掃する前の描写ですが、良かったらご参考までに。↓↓↓

では諸君、良き分解清掃LIFEを!かしこ。

ブログ管理人:isofss(イソフス)