それはヤフオク散歩中の出来事でした。ジャンクとの注意書きがあるとは言え往年の名玉NIKKO-S Auto 50mm F1.4が1円出品されてたら血が沸るのはヲタクの性です。結局3420円(送料込)で落札しまして。到着後、レンズに大きなダメージはなく一安心。さぁ、気合い入れて分解清掃致しましょう!この記事の内容が同じレンズを持っていらっしゃる方のお役に立ちますように。※同じ内容の分解動画もありまっせ。

レンズの見分け方。

なお、このレンズ・NIKKOR-S Auto 50mm F1.4はFマウント50mm標準レンズシリーズの初期型となります。見分け方は(1)マウント部分にネジがない。(2)前玉の名盤表記が[Nippon Kogaku Japan]になっている。(3)カニの爪が富士山のような三角形。(4)レンズ先端がシルバーリング…などの特徴があります。販売されていた時期は1962-66年の4年間。約70年前のレンズなんですね。すごいロマンだ。

1.分解の下準備。

古いレンズですから(早る気持ちを抑えて)、まずはレンズクリーナーを穴という穴に・隙間という隙間に染み込ませていきます。100円均一のスポイトを使っています。

ヘリコイド固着レンズだったため、まずはレンズクリーナーをあらゆる穴に染み込ませました。

本記事に掲載している写真は一度分解して粗を取った後に撮影していますので汚れはあまり写っていません。↓初めて分解した時の写真がこちら。グリスが劣化して固着していますね。相当固かったです。

これが固着の原因でした。古いグリスが乾燥して固まっていました。

2.前玉とリング3種を分解。

では前玉からアクセスしましょう。ゴムのオープナーを使ってグリグリすればOK。

前玉はゴムのオープナーで分解できました。

前玉は2群3枚の構成になっております。ぱっと見は綺麗なんですよね。後で分かったことなのですが、このレンズ、以前の所有者さんが分解清掃していた痕跡がありました。

前玉群を取り外します。ぱっと見は綺麗です。

NIKKOR-S Auto 50mm F1.4はNikonの千夜一夜物語の四十四夜でも特集されております。レンズ設計の裏話を読めるのは大変感慨深いものがありますねぇ。

Nikon公式HPよりNIKKOR-S Auto 50mm F1.4のレンズ構成図を引用。
Nikon公式HPより引用。(千夜一夜物語・四十四話)

前玉2群は接着されています。この時は無理せずに分解しなかったのですが、やはり汚れが気になったので後日分解し直しました。レンズクリーナーを溝に染み込ませた後に馬鹿力で捻ると外れました。

さらに前玉を2つに分解できます。レンズクリーナを染み込ませた後に力を加えて回します。

3種のリングを外す。

鏡筒前玉側のフォーカスリングを外します。ネジ3本。

まずはフォーカスリングから外します。円周上にネジが3本。ネジの色はフォーカスリングと同じ黒色です。このレンズのネジはマイナスで統一されています。サイズは1.8mmと1.2mmの2本があればOK。この時代のネジは舐めやすいので注意が必要です。押す力8割、回す力2割で作業しましょ。わたくし愛用のドライバーはANEXの精密ドライバーです。日本製。消耗した芯を買い換えられるのもGOOD。

続いて測距メモリリングも外します。ネジ3本。

次に測距メモリが刻まれたアルミリングを外します。ネジは円周上に3本。ネジが小さいので無くさないように。

先端のシルバーリングを外します。小さなネジ1本。

3つ目は鏡筒先端にあるシルバーリングで、これまた小さなネジで止まっています。1本。ここは1.2mmのマイナスドライバーですね。

3.ストッパーを外す。

固着しているヘリコイドが見えてきました。レンズクリーナーを注しつつ、赤外線ヒーターで温めながら、ヘリコイドの回転方向にグリグリと力を加えていきます。最初はビクともしませんでしたが…次第に緩んで、30分くらい格闘の末、最終的にバラせました。ホッ…。

レンズクリーナーを注ぎながら、赤外線ヒーターで温めつつ、固着を緩めていきます。

リングを外すとストッパー(正式名称は分かりませんッ)が2つありますので外します。ネジ2本です。外すのは簡単・実は戻すのが大変。詳しくは後述しますが、とりあえず今は分解したパーツを整理整頓しておきましょう。

ヘリコイドのストッパーを外します。ネジ2本。
レンズ面に並行に付いているストッパー1。

このストッパーが機能することで無限遠と最短撮影距離が出る…という構造になっております。よく考えられてますね。

側面のストッパーも外します。ネジ2本。
鏡筒に付いているストッパー2。

4.絞り機構を抜く。

このタイミングで絞り機構を抜くのが正解でした。抜かずに作業を続けるのは後玉(剥き出し)を傷つけそうで怖いのです。真っ先に抜いてしまいましょう。鏡筒側面のネジ1本を抜くと絞り機構がユニットごと抜けます。

絞り機構を止めているネジを外します。1本。

ここから先は外した位置で組み戻さないといけない鬼ルールが存在します。分解される時はご自身でも証拠写真を撮りながら進めることを強くオススメします。↓とりあえず抜きました。

絞り機構を抜きます。外すのは簡単、戻すのは大変です。

絞り機構を見てみよう。

絞り機構の側面にはレバーが2本あります。↓写真左が絞り羽を動かすレバー。一眼レフ機でシャッターを切る瞬間に絞り羽を設定値に絞る動作をします。反対側に(写真右)絞り値を羽に伝達するレバーがあります。絞り環のF値と連動しています。レバーのネーミングは独自のものです。誰か正式名称教えて…。このレバーは組み上げの時に再登場します。

絞り機構を動かしている2本のレバーについて。

あと、絞り機構のお尻側に後玉群が組み付いています。3群4枚の構成ですが↓ご覧の通り2つに分離します。さらに左手のレンズには内側にカニ目の溝がありました。しかし固かったので無理せず撤退。右手側のレンズは絞り機構をさらにバラせば貼り合せレンズを取り出せると思いますが、そこまでしなくても絞り羽を開けば掃除は出来ます。

絞り機構側に後玉群があり、分解できます。

5.鬼門ヘリコイド分解。

これが元の状態です。分解後、この状態に戻すのがゴールです。

さぁ分解の本丸がやってきました!大事なのは各々の位置です。とにかくこの姿を目に焼き付けましょう。罫書き線と、それぞれの穴、そしてF1.4にしておくこと。この状態に組み戻すのが目下のゴールとなります。

ヘリコイドの動きを制限しているベージュ色の樹脂を外します。

まず向かって正面の穴からマイナスネジを2本外し、ヘリコイドの動きを制限していたベージュ色の樹脂を外します。この時、勢い余ってヘリコイドを全部抜かないように!

ヘリコイドを抜く際に罫書き線を確認。写真を撮っておきましょう。

ヘリコイドを慎重に回転させ抜ける場所を確認します。覚えるために名前をつけましょう。鏡筒面にある罫書き線Aと、真ん中のヘリコイドにある罫書き線が入った穴Bが直線になる位置を確認。ここでまず外れます。

内ヘリコイドを抜く時も罫書き線の位置を確認すること。

外れたヘリコイドをさらに2つに外しますが、今度は十字傷の罫書き線Cと、内側にある罫書き線Dが基準となります。もちろん自分が覚えやすいネーミングでOKです。佐藤健でもるろうに剣心でもいいです。場所さえ分かっていれば後で苦労しません。(私はここを理解するのに2日かかりました)

絞り機構側にあるレバー装置を俯瞰。

絞り環の内側を見てみましょう。前述のレバー2種が鎮座しております。正常に動いていたので分解しませんでした。戦いを略して「戦略」というヤツです。これでまだ工程半分。長い記事になってしまい恐縮至極!

6.外した部品をクリーニング。

潔癖症な私としてはこの時間が1番心休まります。パーツクリーナーは持っていないのでレンズクリーナーでゴシゴシ洗っていきます。固い固着物は竹串を使って除去。下に敷いているのは着なくなった古着Tシャツです。

分解できたら、機が済むまでヘリコイドを清掃していきます。

これでよしとしましょう。グリスアップする前に組み戻しの練習(ヘリコイドの位置確認)をしても良いですね。

ヘリコイド3兄弟。さぁ、ここから組み戻しの本丸です。

グリスアップについて。

グリスアップには今回もチェーンルブを使用。

個人的に「余っているから」という身も蓋もない理由でバイク用チェーンルブを使っています。とりあえず使っていて問題になったことはないのですが、元は高速回転するバイクの稼働部に使われる用途です。バイク用では高粘度グリスですが、レンズ用途ではヘリコイド触感はかなり軽いです。これからグリスを新調なさる方は素直に同価格帯のレンズ用グリス購入をオススメ致します。

7.ヘリコイド組み上げ。

大丈夫、下記の通り組めば乗り越えられます。まず最後に外したヘリコイドを2つ準備します。罫書き線D十字傷の罫書き線Cの位置を合わせてヘリコイドを挿入。ある程度回転させたら罫書き線が入った穴Bを正面に持ってきましょう。

まずは内ヘリコイドの罫書き線を位置合わせして組みます。

このタイミングで鏡筒側の絞り値の位置に例のベージュの樹脂をセットしておきます。(後の作業で必要になるのでF値は1.4にしておきましょう)

先にベージュの樹脂を所定の位置にセット。

そして罫書き線が入った穴B罫書き線Aを位置合わせしてヘリコイドを組みます。

絞り機構側にヘリコイドを装填。位置があっていれば元に戻ります。

そのままヘリコイドを締めていくとベージュの樹脂のネジ穴が元の位置に戻りますので、2本のマイナスネジを取り付ければOK。これでヘリコイド攻略は完了です!

一直線状に罫書き線が並べばOK!

8.ラスボス・絞り機構の組み戻し。

ラスボスと戦う前にストッパーを2本取り付けます。ドラクエで例えるならひかりのたま的な存在。ストッパーが付くことでヘリコイド脱輪を防止できます。↓写真左の方から取り付けましょう。続いてヘリコイドを伸ばした状態で鏡筒側のストッパー位置を探すと楽です。

ストッパーを組み戻していきます。

取り付け後はヘリコイドの回転角が制限されます。これにより無限遠と最短撮影距離が決まると言う仕組み。よく出来てますね。

ストッパーがヘリコイドの稼働範囲を制限していればOK。

押さえるべき3要素。

では絞り機構を鏡筒に組み戻します。以下の3点が必要です。(1)鏡筒お尻側の絞りレバーを指で開いておく。(2)絞り環のF値を1.4にしておく。(3)絞り値を羽に伝達するレバーをF1.4の位置(下記写真参照)にしておく。この状態で罫書き線A(内側にレバーを受けるスリット有)を基準にして組み戻します。どれか1つ欠けると物理的に戻りません。完全に初見ゴロシです。

絞り機構ユニットをヘリコイドに戻します。F1.4の位置で戻すのがミソ。

絞り機構を止めていたネジ穴が正位置に戻っていればOK。

きちんと戻るとネジ穴がちゃんと見えます。

3種のリングを取り付ける。

3種のリングを元に戻します。

ここまで来ればお手のもの。先端のシルバーリング・アルミの測距メモリリング・フォーカスリングを取り付けましょう。そうそう、前玉郡も忘れずに戻します。

9.戦いの終わり。完成だ!

長き戦いに終止符が打たれました。ヘリコイドの動きも正常になり、絞り羽の動きも問題なし。レンズの汚れを取ると小さな点傷を発見。うーん、これは写りに影響しますね。オールドレンズあるある、それも含めて楽しまないと。なにせ3000円ちょいで入手できたのですから御の字です。

前玉群を戻して完了です。そしてヘリコイド復活しました。

マウントアダプター経由でNikon Z6iiに取り付けてみました。うむ!かっこいいぞ。願わくば全長がもう少し短ければなぁ…。軽量を追求したいスナップ装備であればギリ「なしよりのあり」って所でしょうか。前玉がけっこう前に出てますので裸族だと傷がつきそうです。フードorフィルターは必須かと。

NIKKOR-S Auto 50mm F1.4に何もフィルターを付けていない外観。かっこいい。かっこいい。

ということで現在フィールドテストを行なっております。写真と動画の作例記事は改めてUPします!最後までお読み頂きありがとうございました。お役に立てば幸いです。では諸君、良きオールドレンズLIFEをお過ごし下さい。かしこ。

ブログ管理人:isofss(イソフス)

※補足

このレンズでやってはいけない分解方法について動画にしました。まじで詰みますのでご参考までに。