ひょんなことから過去のナショナルジオグラフィックを譲っていただいた。出版時期は2000年界隈、なんと20年前のカメラ雑誌だ。実際に読んでみて面白かった部分や考えさせられる内容が沢山あった。完全なる雑談だがタイムスリップした筆者の読書感想文をご拝読あれ。

1.当時のカメラ広告。

カメラ好きは絶対立ち止まってしまうページだろう。当時のトレンドやいかに?

20年前のCANONの広告がすごい。
EOS V1 2000年3月発売

ナショナルジオグラフィック誌2000年10月号に掲載されていたキヤノンの広告はEOS 1Vだった。1Vだったと言っても当時高校生だった私は当然このカメラを知らない。ググるとキヤノン公式HP上に情報が残っていた。フィルムカメラなのか!プロ仕様のフラッグシップ機だそうだ。それにしても最上位機が税別27万円とは安過ぎないか?(しかしフィルム代がランニングコストで乗るなら全体としては高額になるか?)…などなど、知らない世界の情報に心が躍った。

20年前のNikonの広告もすごい。
FM3A 2001年7月発売

我らがNikonの広告は2001年6月号に掲載があった。金属ボディのフィルムカメラFM3Aである。電池がなくても1/4000秒まで機械式シャッターが使えるあたりがなんともNikonらしい。こちらもNikon公式HPにアーカイブがあった。こういったロマンの塊を是非ともデジタル版で復刻して欲しいと願ってやまない。さて、ボディ単体で税別96000円とあるが一体どういう仕組みでこんなコスパが出せるのだろう?その後20年を経て、スマホに圧倒されたカメラ業界が衰退の一途を辿っていると言う話には枚挙にいとまがないが、そもそもカメラの価格が2倍3倍になっていることは正常進化なのだろうか?その高額機材を手にした現代人の生活は豊かになったのだろうか?

NATIONALGEOGRAPHIC、2000年10月号
2000年10月号

さて、カメラ広告を楽しんだところで次は記事を読んでみることにしよう。当時の世界で活躍するカメラマンの撮った写真も見れるだろう。楽しみでならない。

2.ジャングルを横断する男。

この号では、アフリカのジャングルを横断する男マイケル・フェイの特集が組まれていた。当然ジャングルに舗装された道などあるわけもなく、ナタで草木を切り拓きながら樹林の中へ中への進みゆき、日が暮れるまでにキャンプ地に相応しい場所を探し、傷の絶えない足まわりに軟膏を塗りながら地面で寝る…それを1年以上繰り返しながらアフリカの自然を調査している様子が事細かに記載されていた。その調査もとかく原始的で、例えば象の糞に含まれる植物の種を調べて記録していく作業中に寄生虫が足の爪にお引っ越ししてくることもしばしば…といった冒険談がひたすら続く。

マイケル・フェイのジャングル横断記

旅の目的は自然保護だという。アフリカの豊かな資源はビジネスリソースそのものらしく、企業進出は=自然破壊と同義語らしい。企業は森林を伐採して利益をあげ、現地の従業員は食料として近隣の動物たちを狩猟することになる。モザイクなしの生々しい写真が掲載されていた。そうした“侵略”のおかげで現地の人々の生活も、その企業のサービスを受ける諸外国の人々の生活も“豊か”になるのだから皮肉な話だ。象の密猟も後を絶たないそうで(私は知らなかったのだが)当時、象牙利用世界No.1の日本にとっても対岸の火事ではないと書かれていた。彼らはこうした情報を元出に政治的なやりとりを通して自然を保護するのだそうだ。

像やチンパンジーの写真が出てくる。

こうした活動があってもコンゴでの鉱物紛争は止められなかったし、現地が今どうなっているか知るよしもない。ただはっきり言えるのは、先進諸国の“豊かな生活”が自然や動物たちの血の上に築かれているという事実は20年経っても変わらないことだろう。

3.移民の話。

別の記事の話だがセンシティブな内容が続く。“豊かな生活”を求めて自由の国に越境してきたイタリア移民の半生が写真と共に掲載されていて、これもまた面白かった。数多くの差別に立ち向かいながら懸命に生きてきた昔話だ。いうて20年前に存命だったお爺ちゃん達の自叙伝であったので、話の内容は古い時代のものだろう。中でも一際印象に残ったのが下の写真の見出しのセリフだ。

イタリア移民の生き様を綴った記事。

今じゃこの街を歩いて200人に出会っても知った顔は一人もいない。

現代人から言わせればそんなの当たり前だが…。一人もいないどころか、誰もが互いに関心すら持っていない。それが豊かな国に生まれた特権なのだから。Wacciが「東京」という歌で20年後の世界の有様を見事に表現している。

どこかで出会って もう忘れた人たちへ

僕が消えたらどんな気持ちになりますか?

驚いて 頷いて 数分後には元通り

悲しいけれど僕もおそらく同じです

wacci「東京」より歌詞抜粋

4.伝わる写真。

たかだか1冊の雑誌ではあるが感慨深い内容だった。掲載されている写真も興味深いものが多かった。共通してノイズまみれ・ブレ・露出外しのオンパレードだった。それもそのはずだろう、フィルムだし、カメラの電子制御のレベルも低い時代の写真だ。でも説得力はあった。ページを捲らずに止まっていたい写真の多いこと多いこと。写真家鈴木心の言葉が思い出される…「いい写真とは伝わる写真」だと。

電子化時代に紙の紙の本を紙の本を読む意味。

この雑誌が発行されて20年後。誰が想像できただろう?スマホの台等で今や国民総カメラマン時代になった。世界は写真で溢れ、渾身の一枚もタイムライン上で1秒ももたずに消費されていく。いまさら紙の写真を楽しむなんてアナクロ趣味かもしれないが、実際に伝わる写真に触れたことで「その豊かさとは何か?」と問われた気がした。答えが分かれば苦労はしない。

では諸君、良き写真LIFEを!

ブログ管理人isofss(イソフス)