ブランドパワーとは恐ろしいものだ。Leicaの名を冠するだけでいい気分になってしまうのだから。それは浅はかな感情なのだろうか?あるいはお誂え向けの刺激だろうか。iPhoneでLeicaを体験できるアプリLeica LUXがリリースされてからここ数日間、実際に使ってみた初見を綴ってみようと思う。

ターゲットは誰だ?

私はライカを持っていない。だからライカがなんたるかは皆目見当もつかない。だがこれだけは分かる、Leica LUXの写真は色味がいい。どこがどういいのかは言語化できないし、そもそもカメラ自体はiPhoneなのだから臍で茶を沸かしているだけかもしれないが…なんとなくいい!

Leica LUXを使って博多うろうろSNAPを楽しむ回。まずはいつもの博多駅筑紫口からの風景。

このアプリの目指すところがそんなふんわりした表面的なものであるとは考え難い。そんな慈善事業アプリではないだろう。少なくともアプリのターゲット層は世界中のiPhoneユーザーだ。iPhoneを購入できる客層を足がかりとし、その中から本家ライカへ興味を持たせる撒き餌だとしたらいろいろと腑に落ちるところがある。

Leica LUXを使えば、そこら辺の壁だってオシャレに見える。駐車禁止の看板がエモい。

例えばアプリのユーザーインターフェイス1つをとってもそうだ。この点はYouTube版でも喋っているがLeica LUXのUIは細部に至るまでシンプルで合理的で心地が良い。ただ押せば撮れる単調なiPhoneの純正カメラとはちょっと違う撮影体験が出来る。私はまずこの出会い頭で心を掴まれた。

Leica LUXはライカのカラープロファイルを使えるアプリだ。古いバスを撮影。やっぱりエモい。

そこにこのである。ライカの透かしが入った写真をアプリのボタン1つで別ファイルとして生成することができる。スマホ写真である不都合な事実を忘れてしまう魔法がかかっているように思える。純正カメラとは違った色味の写真をライカ額装仕様でアウトプットできるのだ。これはダイレクトに脳に響いた。

単にiPhoneカメラで撮っているだけなのになぜか撮影が楽しい。不思議な感情だ。咲きがけの紫陽花をパシャリ。

Leica LUXは無料の基本モードと 全機能解禁サブスクモードの2段構成でダウンロードユーザーを迎える仕様になっている。サブスクといっても月1000円である。そう、我々は試されているのだ。このアプリは200万円が溶ける世界に足を踏み入れる登竜門なのかもしれない。

帯は何のために?

無料版で楽しんでいる私はすでに見込み客という篩からは落ちてしまった訳だが、それでも好印象なファーストライカ(偽)を海馬に刻まれのだから開発者の思うツボだと思う。現にこうして記事を書いて人に流布しようとしているし…。

iPhone側のそれぞれの焦点距離のレンズをライカレンズライクで使えるLeica LUX。ケーキ屋さんの外観を撮影。

さて、ここでライカの帯について少し駄文を綴ろうと思う。もしこの帯がなければここまでLeica LUXに首っ丈になっただろうか?写真を撮るときは純正アプリではなくてLeica LUXにしようと思うだろうか?答えはだ。

傘に当たる雨粒をLeica LUXで撮影。何を撮ってもライカの帯を入れることでオシャレに見える魔法。

では何のために帯を入れているのか?と問われれば、それは人に見せるための下心がどうしてもチラついてしまう。ライカの威を借りて「これすごくない?ライカなんだぜ!エモくない?」と他者に帯写真を自慢したい気持ちが…薄らぼんやり、でも確実に、ある。もちろん賞賛の矛先はライカではなく「ライカを使っている俺」である。擬似アプリでさえそんな気持ちにさせるライカのブランドパワーはきっと魔法なんだと思う。あとはサブスク課金すれば私は大手を振ってライカが望むターゲット射程圏内に入れるだろう。ゆくゆく実物ライカを手にした時、ライカ教の扉がようやく1枚開くのだ。

補足を2つ。

皮肉っぽく書いているが実際は嫌な気持ちなど1mmもない。むしろこの感覚は日本カメラメーカーを使ってきた中で感じたことのないものだったし、ブランド力の凄さを体験できてよかった。いやマジでライカの羽の先が掠っただけなのに。本家ライカユーザーの方から嗜められそうなファーストインプレッションになってしまったことは甚だ陳謝したい。

Leica LUXの色味と古い昭和チックな造形物との相性は良いと思う。昭和展示で看板を撮影。

さて当記事のYouTube版ではUIの快適性について触れているが、そこで喋り漏れていたことを2点追記しておこう。まず(1)電子水準器のギミックが粋なこと。Leica LUXの電気水準器のUIはデザインこそ純正カメラと同じだが、水平が撮れたところで表記が赤くなり一瞬ブルッとバイブレーションが動作し、その後電子水準器はフェードアウトする。気が利いていると思う。

古いカメラなどを撮っても卒なくそれっぽく撮れるLeica LUX。もうiPhoneのカメラはこれでいい。

もう1つは留意点。(2)どうやら古い世代のiPhoneだとアプリをインストールできないようだ。Leica LUXを職場の同僚にすすめてみたがiPhone Xはサービス対象外だった。擬似レンズ構成からして3眼タイプのiPhoneでないと難しいのかもしれない。ここはご自身のiPhoneで試して頂きたい。なおAndroid版は存在しないので大人しくXiaomi 14 ultraを買うといいだろう(棒)。

実際の景色と写真にそこまで齟齬がなく、でもエモく見えるバランスがLeica LUXの特徴だと思う。6月の夕間暮れを撮影。

無料版で使えるカラープロファイルは5種。個人的に気に入っているのはVIVIDだ。もうほとんどこれで撮影している。彩度は高いがキツい香水のようにならない塩梅が良い。最後に、iPhoneでフィルターワークを可能にするSTCのIMAGFILTERを取り付けた状態でLeica LUXとコラボしてみた写真が↓こちらである。

Leica LUXとブラックミストの合わせ技。タクシーのライトが滲んでいる。これはズルい。

ブラックミスト効果(1/4)で光源がホワッとしているのが見てとれる。インスタントかもしれないがスマホカメラの撮影体験はこんなところでいいと思う。そのうちライカの魔力に絆されて本家に凸るなんてことになったら……まぁそれも悪くないだろう。妄想するのはタダだが、現実的なところで目下必要なのはであることを突きつけられた小さな梅雨の夕間暮れ。なんて日だッ!!

縦写真編です!