50mm単焦点レンズと言えば、各メーカーが必ず撒き餌として準備する鉄板レンズだ。一度その魅力に取り憑かれたが最後、さらに良いレンズを求めて沼にズブズブと入水することになる。それを分かっているメーカーは50mm単焦点レンズに原価をかけないのが普通だろう。しかしNikonという光学屋は世の理をぶち抜いて高いけどガチ性能な50mm単焦点NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sをのっけから作ってしまった。そんなことしたら広く普く売れないのでは?否、この記事を見ている貴方の購入意欲を掻き立てる作例を並べ立てよう。ご覚悟されたし!
1.ガチ過ぎプロダクト。
まず触ってみて最初の感想。撒き餌とは言い難い金属鏡筒の冷んやりした高級感が堪らない。フォーカスリングの幅はかなり広く、回転には程よい重さがある。バイワイヤーなので無限に周り続ける。このリングはカメラ側の設定で絞りや露出補正など別の機能を割り当てることができる。レンズ自重は415gで、軽いとは言い難いが決して重くはない。花形レンズフード(HB-90)が最初から付属している。他社はフードが別売りだったりすることが多いので余計にNikonの良心を感じる。ありがとうNikon。
まずは大口径を楽しむ。
単焦点レンズの醍醐味は絞りを目一杯開けてボッケボケの写真を撮ることではないだろうか?狂ったように開放で撮りまくる!なんか上手くなった気がするんだ。いいではないか!なお、ZマウントになってからのNikonのレンズは開放でも物凄くズバシーッ!と決まる。収差なんてどこにあるのか?(少し絞るとさらに解像感が増すのは言うまでもなく。)
周辺が流れない。
一般的には画質を妥協してコスパを合わせることが多い撒き餌レンズだが、このレンズはそんな伝統を鼻で笑う描写性能がある。下の写真はWEB用に横幅を990ピクセルまで縮小しているのだが、元データで等倍表示しても左上隅の鉄格子1本1本まできっちり写っていた。写りすぎててちょっとひいた。Nikon Fan Meetingでもらったムック本の中に書いていたのだが、S-Lineのレンズ球面を野球ドームの屋根くらいに拡大したならば、その時のレンズ表面の粗は人間の髪の毛1本程度…なんだとか。とにかく光を撮像面に届けることに関して妥協のないプロダクトになっているらしい。そりゃ高解像になる訳だ。
逆光耐性。
S-Lineを冠するZレンズはナノクリスタルコートが標準装備となる。つまり逆光に負けない。私はゴーストを見たことがない。とんでもなく白飛びしている部分との境界線にフリンジすら出ない。いじわるな環境でも涼しい顔で耐えてしまう。
↓モヒカンみたいなフレアを確認することが出来た。この現象は他のレビュアーさんの写真でも見たことがあるので、そういう仕様なのだろう。
玉ねぎボケ。
9群12枚のレンズ構成の中に非球面レンズ2枚(とEDレンズ2枚)が含まれている。絞り開放の玉ボケの中に年輪が少し見てとれる。個人的には全然許容範囲なのだが、いかがだろうか?
2.鉄板と言われる理由。
さて、50mmの画角は鉄板鉄板と言われるものだ。「初めての単焦点は50mmがいい」とか「50mm画角をマスターしたら写真が上手くなる」とか、そんな話はよく聞く。実際どうなのか?50mmで何が撮れるのか?それを知るには50mmで撮った写真を見るのが一番早い。
50mmはそこそこ狭い。そして被写体に寄るほどボケは強まる。この性質を組み合わせて何かを切り抜くことも可能だ。後ろをボカしてもよし、前ボケを入れてもよし。
最短撮影距離は40cmで、最大撮影倍率は0.15倍だ。このあたりはどのメーカーも似たり寄ったり。
3.スナップと50mm単焦点。
画角を足で稼ぐ必要のある単焦点レンズで画角感を磨くこと、それはつまりスナップ撮影に出かけることを意味する!間違いない。
話が逸れるが、私がNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを購入したのは2019年だった。誰もマスクをしていない。まさかあと半年で世界がひっくり返るなんて誰も知らない穏やかな世界だった。
2019年、ラグビーW杯が日本で開催された。パブリックビューイング前には人人人…。これじゃ三百密じゃないか。あの頃が懐かしい。
やはり50mmはそこそこ狭い。どうやら35mmが肉眼で両眼分・50mmが片目分だとか。私は普段から眼鏡人なので元々視野が狭く、50mmくらいの窮屈さがちょうどよく感じたりもするのだが。
建物全体を収めようとすると結構さがらないと入らない、それが50mm。
鏡に写る自分を撮ってみた。スナップ中の携行サイズはこんな感じだ。レンズフードを付けると野暮ったく見えるのでスナップ中は裸族で運用している。逆光には強いからフードなくてもいいや…と。でも落としたらレンズに直ダメージである。怖いのでストラップは付けている。
輝度差の大きいシーンでもシャドーが黒潰れせずに情報がちゃんと残っていた。普通、撒き餌レンズでこんな逆光を撮ると天井あたりはパープルフリンジだらけになりそうだが。
Nikonが準備しているピクチャーコントロールで遊ぶのも面白い。レンズがカメラに伝える光の素性が良いので後で色を捻っても破綻しないのだろう。
超逆光でもゴーストは皆無。そしてこのグラデーションよ。ZマウントはFマウントとは別世界になってしまった。Zは最初からこれだもの。この良さを…特に若い世代に知ってほしいなぁ。(SONYに負けるなNikon)
総括。
NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sで最も美しいと思った写真は鳩だった。鳩かよ!F2で撮影している。ピント面のシャープさ、ボケのなだらかさ、玉ボケの美しさ、どれもGOODだ。このレンズで人物撮影したら毛穴まで写ってしまいそうだ。
恐るべしNikon Zマウント単焦点NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの完成度の高さよ。Nikonがサードパーティにレンズ情報を開示しないのも(残念ではあるが)分からんでもない。相当自信があるのだろう。ここまでガチで作ったんだ、そりゃ自社のレンズを使ってほしいだろう。値段も通常の撒き餌の2倍くらいするし。本気なのは分かったよNikon。
迷うなら買おう。
購入当時、実はマップカメラでZ6と50mmのセット販売があったのだ。実質5万円くらいで買えた私は単にラッキーだった。でも(結果論だが)単に高いから購入しなかったらZマウントの素晴らしさを実体験できていなかったかもしれない。Z6初めてのレンズが50mmで本当に良かった。もし貴方がこのレンズの購入を検討されているのであれば買った方がいい。迷うくらい考えているなら尚更。仮に買って開封して初めてEVF覗いたらなんて言うだろう?たぶん「やば…なんこれ、やば。」という語彙力欠乏病に見舞われるだろう。それもまた一興かと。なお、私はこの後Nikonの思惑通りZ24-70mmF4→Z85mmF1.8→Z24-70mmF2.8とZ沼に溺れることになってしまった、ここだけはご注意願いたい。そんなZ散財おじさんが最も衝撃を受けたレンズ85mmについて次回は書こうと思う。これはこれで50mmの上をいくヤバさだったので。
では諸君、良き散財LIFEを!かしこ。
ブログ管理人:isofss(イソフス)