ブログとYouTubeで過去2回に渡りお届けしてきたAi Micro NIKKOR 55mm F2.8 Sの分解清掃ですが今回でようやく完結となります。フォーカスリングを重くしていた副ヘリコイドのグリス固着(下のリンクは第一話)をどうやって解決したのか?詳らかに綴ります。

Ai Micro NIKKOR 55mm F2.8 Sの再再リベンジやっていきます。まずはスタート地点を記録。
Ai Micro NIKKOR 55mm F2.8 S (1981-2020)

副ヘリコイド分解。

3分クッキングばりに飛ばしまして、いきなり副ヘリコイドの登場です。ここまでの手順は第二回をご参照下さい。前玉群の後ろについている絞り機構も取り外した状態です。横から見ると↓長方形の溝から直進キーが顔を覗かせております。諸悪の根源はこの内部にありました。

問題になっていたのは副ヘリコイドの固着。ここまで一気に分解しました。

まず行うべきはヘリコイドの無限遠位置で罫書線を書き入れることです。(それはつまり分解を無限遠の状態でスタートする必要があるということでもあります。) 便宜上この罫書線を「A」と名付けましょう。

ヘリコイドに無限遠の位置の罫書線を刻んで記録します。

続いて直進キーを外します。絞り機構側からアクセスします。当ブログでは耳タコ案件ですが精密ドライバーはいいやつを使いましょう!ここでネジが舐めたら全てが終わります。直進キーが外れる位置も覚えます。なぜなら「外した位置で組み戻さないと正常動作しない」がという分解の大鉄則が付きまとうからです。失敗した私が言うから間違いないのです…。

絞り機構側から直進キーを外します。直進キーがあった元の位置も覚えておきましょう。
外した位置を覚えるべし!

直進キーを外すとヘリコイドが自由に回転しますので、最終端まで回しましょう。最初に書いた罫書き線「A」を目で追います。

直進キーを抜くとヘリコイドがさらに閉まる方向に動きますので最終端まで閉めます。

締め切ったところで罫書き線「A」の下に「B」を書き加えます。ここが最終端だと把握するためです。

ヘリコイドを締め切ったところで罫書線を書き加えます。

そうしましたら前玉側をクルクル回して抜きましょう。【注意点】前玉が抜ける位置も記録して下さい。私はうっかり抜いてしまい組み上げた時に最短撮影距離までフォーカスリングが回らない状態になりました。ヘリコイドの溝が1つズレるだけで正常動作しなくなります。

その状態で前玉側を回して分離させます。もちろんヘリコイドが抜ける位置を覚えておきましょう。私はここを失念して無限遠が出なくなる事態になりました。
※1(後述)

前玉化粧環の固着。

[前回の宿題] 前玉側からゴムのオープナーで分解できるはずの化粧環が固着していた件です。実は(副ヘリコイドを分解した後に)化粧環の内側が物理的に見える穴が外周に3箇所存在します。ここに無水エタノールを少量染み込ませて化粧環が緩んでくれることを期待したのですが……結局ダメでした。あまりジャブジャブ流してレンズまで液が回りコーティングを剥がしてしまったら元も子もないので、前玉からのアクセスは諦めます。幸いにもレンズは綺麗な個体だったので良しとしましょう。戦いを略して「戦略」と言いますしね。

前玉の化粧リングが外れなかった件ですが、内側から無水エタノールを染み込ませても固着は取れませんでした。諦めます。
↑穴の奥に見えるのが化粧環の内側。

話を戻します。副ヘリコイドの最後のヘリコイドを分離させます。もちろん抜ける位置を記録します。清掃後に同じ位置で嵌め込む必要があるからです。

最後に副ヘリコイドを抜き切ります。もちろん抜ける位置を記録しましょう。外した位置で組み戻す必要があるからです。

副ヘリコイドを3つに分離させました。古いグリスがネバネバしておりました。フォーカスリングが重かった理由はこれでしたね。無水エタノールで完全に脱脂し、代替品のヘリコイドグリス柔らかめを歯ブラシで薄く薄く塗布しました。

副ヘリコイドの部品は3点。全て清掃してグリスアップします。

もう二度とここまで分解したくありませんので(フラグ)、見えているレンズに手垢や埃が付着していないか?チェックしておきましょう。

外した位置で組み戻す。

最終決戦です。まずは副ヘリコイドの2つの部品から。くどいようですが外した位置にピッタリ合わせて組み戻していきます。罫書き線「B」までねじ込みます。外した位置で組めば物理的にこうなりますね。

副ヘリコイド組み上げ1。罫書線に合わせて組み直します。

続いて前玉側のヘリコイドを組み戻します。前述の通り、私はこの位置を記録していなかったので最初の組み戻しは失敗しました。それに気づくのは全てを組み上げた後です。再び全てを分解し→嵌め込み位置を変え→再度組み上げなければなりません。この時の絶望に満ちた顔をご想像下さい。

罫書線が一致した状態で前玉を組み込みます。もちろん外した位置で嵌め込む必要があります。

直進キーを取り付けます。取り付ける場所は(もちろん)外した時と同じ位置です。

直進キーを取り付けます。これで副ヘリコイドが分離しなくなりました。

最後に副ヘリコイドを少し回して「A」の罫書線の位置まで戻します。これが無限遠の状態です。この位置を保持しつつ最終的に外側のヘリコイドに合体させます。

最初に書いた罫書線の位置までヘリコイドを戻します。これが無限遠の位置になります。

その前に絞り機構を戻さねばなりませんね。これで前玉側の準備はOKです。

副ヘリコイドに絞りユニットを取り付けます。無限位置がずれないように注意。

手際よく外側のヘリコイドを組み戻してネジ止めします。

外側のヘリコイドを副ヘリコイドを組み戻します。何度この作業を繰り返したことか。

絞り環→マウントの順番で戻します。これで終了です。

最後にマウントを取り付けて終了です。長い旅が終わりました。

元通りになりました。最後に(1)フォーカスリングがヌルヌル動作するか?(2)無限遠から最短撮影距離までヘリコイドが回転するか?この2点を確認し問題がなければ勝利確定となります!…長かったなぁ。

組み戻した直後のAi Micro NIKKOR 55mm F2.8 S。メモリの溝が汚れているので掃除しました。

↑よくよく見るとメモリの刻みに汚れが溜まってますね。無水エタノールと歯ブラシで掃除しました。

最短撮影距離まで回らない時。

最終チェックで異常事態発生!最短撮影距離までフォーカスリングが回りません!通常は物理的にカチッと音(内部で回転を制限する突起が当たる音)が鳴って回転が止まります。おかしいなと思い、同じ55mmの旧タイプF3.5のレンズで撮り比べてみました。同じ倍率(最大撮影倍率0.5倍)なのに明らかにF2.8Sのレンズは寄れていません。

副ヘリコイドの嵌め込み位置がずれているとフォーカスリングが最後まで回らないトラブルを引き起こします。
実写テスト中に寄れないことが判明…。

副ヘリコイド分解の時に前玉ヘリコイドが抜ける位置の記録を失念していたこと(上記写真※1)が原因でした。組み戻す時の溝の位置が間違っていたようです。もう一度全てを分解して溝を1つずらして組み戻したところ最短撮影距離までフォーカスリングが回るようになりました。調整が一回で済んだのは奇跡に近いと思います。360度の円周上に幾つの溝の入口があるか存じませんが、ヘリコイドだと正解は1つだけです。この構造は条数が多いと表現するそうでカメラ部TVさんの解説で勉強しました。非常に分かりやすかったのでリンク貼っておきますね。

何度も分解して調整しました。ようやく最短撮影距離の倍率が0.5倍あたりまで目視できるようになりました。
調整後→同じ程度の倍率に。

文章で表現するのは難がありますね。同じ轍を踏んだことのある方はニヤニヤして頂ける内容かと思います。何度だって言いましょう。外した位置で戻せ!これに尽きます。なんとか復旧できてホッとしています。

Ai Micro NIKKOR 55mm F2.8 S & Zfc、写真作例。換算82.5mm

生き返ったAi Micro NIKKOR 55mm F2.8 SをミラーレスカメラZ fcに装着して換算82.5mmで実写テストしてきました。素晴らしい実直な描写です。詳しい様子は今週投稿のYouTubeでもご覧頂けますぞ!

まとめ。

七転八倒しましたが、ジャンク品で購入した銘玉Ai Micro NIKKOR 55mm F2.8 Sを完全復活させることが出来ました。YouTubeやTwitterでアドバイス頂いた皆様に感謝申し上げます。偉そうに曰っておりますが当方素人です。趣味人間でも(道具さえ整えば)分解清掃はできます。ネットで何でも調べられる時代になった恩恵ですね。この記事の内容が目下分解中の方のお役に立てばこれほど嬉しいことはありません。オールドレンズの分解清掃に興味を持たれた方に向けたオススメ道具の一覧記事のリンクも貼っておきますね( ´∀`)グフフ。お待ちしておりますよ。

もちろん失敗はつきものですし、私も数多の失敗を繰り返しております。その分、組み戻ったレンズへの愛着はひとしおです。さて無事に無限遠が出せるようになった今、成すべきことは実写テストですよ!毎日写真を撮り続ける修行・一日一撮博多うろうろSNAPに当レンズを参入させる予定です。その描写の実力、とくと見せてもらいましょう!最後までお読み頂きありがとうございました。

ブログ管理人:isofs(イソフス)